揺れる香港問題 偏見無き評価を

香港の国家安全法制をめぐる問題がクローズアップされてきている。国家安全法制とはそもそも何だろうか。

 日本経済新聞(日経新聞)は,「香港国家安全法は国家分裂や政権転覆,組織的なテロ活動,外部勢力による内政干渉を禁止する。中国が国家安全に関する機関を香港に設置することも可能と」なり,「罰則なども詳細は明らかになっていない」と報じている。

 国家安全法制の混乱をめぐっては,香港の憲法に相当する香港基本法の解釈の対立が根底にある。香港基本法には,自ら国家分裂や政権転覆を規制する法律を制定することが義務付ける条文があるが,未だその法律は制定されていない。そして中国政府は,香港基本法の特例規定を用いて今回の制定に乗り出した。

 それに対し,アメリカのトランプ大統領が「一国二制度」を否定するものだと苦言を呈した。米中対立は,アメリカ側が香港の権益を固守したいために仕掛けたものだ。理論的にもパワーバランスにしても中国に分がある。

 日経新聞は,中国政府が国家安全法制を進める理由について,昨年の大規模デモに様子から香港政府が自力で制定することが不可能と判断したと説明する。地元弁護士団体が特例規定の解釈に正当性がないと訴えていることも踏まえ,集会やデモの自由が制限される恐れがあるという。しかし,香港基本法の規定では,最終的な解釈権は全人代常務委が持つとも加えている。

 他方で,読売新聞は,国家安全法制は外国からの干渉に対抗措置をとることが目的であり,「米国を想定しているのは明白」であるとする。記事の中で多く取り扱うのは,米中の対立構造であり,アメリカが仕掛けた論戦を中心に報じる。中国政府が法制に乗り出した経緯については社説で少し触れたに過ぎない。

 日経新聞は経済紙であることから,中立な事実報道がなされている。中国政府はもはや米国の干渉が念頭になく,米中の関係では中国側に分があるのが事実だということも暗に示している。しかし,読売新聞は中国に楯突くようなアメリカの姿勢を取り立てて報じており,米国優位の無理のある描き方をしている。

 今,世界はポストアメリカを探る状況になっているが,筆頭は有無を言わさず中国だ。両大国に挟まれた日本はどちらに追従するかを決めなかればならない岐路に立たされている。戦略的には中国と対等の互恵的外交関係を構築することが最善であるが,アメリカ中心主義に洗脳された日本の世論を説得するのが難題である。大きく舵を切らねばならない今,賢明な報道と堅実な政治が求められる。

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荻原重信

宮城県出身。
政治コラムニストとしてTHEMEDIAに寄稿。
最近ツイッターを始めた。
趣味は剣道。好きな食べ物はササニシキ。