大阪府知事 吉村洋文氏のカリスマ性

日経新聞の世論調査によると,新型コロナウイルス感染者が最も多い9都道府県の知事のうち,最も評価が高かったのは大阪府知事の吉村洋文氏であった。全国的に見てこれほど支持が厚い理由はどこにあるのだろうか。

〈大阪府の具体的な新型コロナ対策〉

  1. 医療従事者の宿泊場所提供のお願い
  2. 助け合い基金の創設
  3. 休業要請対象のパチンコ店の店名公開
  4. 自粛要請・解除,対策の基本方針「大阪モデル」の発表
  5. 大学生臨時雇用 50名

 新型コロナウイルスの猛威に襲われる今,医療現場がかなり逼迫した状況になっていることは周知のことだろう。患者の命を救わなければいけない。そして,自分自身はかかってはいけない。そういう過酷な状況下で日々仕事をしている現場の方々には頭が上がらない。

 現場の人は家に帰る時間すらなくなっている。そのせいで近くの宿泊施設に自費で止まらざるを得ない。このような不条理を打開するためだろう。大阪府は宿泊施設の無料・割引提供を呼びかけた。加えて,現場の支援のために助け合い基金を設立した。

 けれども,これらの支援対策はいずれも民間任せである。大阪府が宿泊施設を借り上げるとか,大阪府の予算から支援を捻出するといったことはなされていない。府の主導でこれらを行えばより迅速に実施できるはずだ。

 パチンコ店の店名公開にしても,補償は出されていない。公共の福祉には反しないため,店名公開は合法ではあろうが,平時には厳格に保護される財産権に幾分か不利益を生じさせているのである。そこに対する配慮のない吉村知事の高慢な態度は,人の言うことを耳に入れないトランプ大統領や橋下徹を彷彿させる。

 4つ目の「大阪モデル」は,法律に従った行政運営の方針を示しただけで,なにも特別なことではない。ただ「大阪モデル」というおこがましい名を冠しただけである。吉村知事が行なっているのはもっぱらイメージ戦略であって,府の舵取りではない。

 大学生の臨時雇用にしても,雇用枠はたったの50。大阪府内だけで大学生・大学院生の人数は200,000人を超える。ましてや,勉学本望の学生に労働時間を差し出させているのだ。これもまたリップサービスとしか評しようがない。

 吉村知事の施策は,概してイメージ戦略(ウケ狙い)的である。内実は空しい。テレビによく出演しているのもそれを象徴している。特にフジテレビなのだから。このようなポピュリスト的対応を,この危機の最中で称揚するのは愚の骨頂である。

 読者の方々,賢明であろうという自負があるのなら,惑わされてはいけない。虚栄に満ちた政治家は,市民に目を向けていないのだから。

 最後に,田中角栄氏の言葉を引こう。

「いい政治というのは国民生活の片隅にあるものだ。目立たずつつましく国民の後ろに控えている。吹きすぎていく風ー政治はそれで良い。」

プロフィール

荻原重信

宮城県出身。
政治コラムニストとしてTHEMEDIAに寄稿。
最近ツイッターを始めた。
趣味は剣道。好きな食べ物はササニシキ。