中国の巡視船が日本の領海へ侵入 日中関係をアジアの歴史から考える

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  先日,中国当局の巡視船が日本領海に侵入する事件があった。

国際法上大変な問題である。中国の領有権問題といえば尖閣諸島である。外務省は日本固有の領土であるとしているが,外交史を辿るとその妥当性も疑いの余地がある。

 戦後,中国国内では国民党と共産党の抗争があった。サンフランシスコ講和会議には国民党の蒋介石が出席したが,結局政権を握ったのは共産党であった。そのため,日本と中国間には久しく国交がなく,1972年に国交正常化があり,ようやく日中の関係ができる。日本の代表は時の総理田中角栄、中国は周恩来であった。二人の交渉が尖閣諸島問題をめぐっての重要な結論を導き出す。

 日中間が冷え切っていたのは,いうまでもなく日本の戦争責任の後ろめたさがゆえである。しかし,周恩来は,中国は賠償を求めず日本の謝意だけを受け取るという方針をとった。その代わりに,日本は尖閣諸島の領有権主張を棚上げにし,日中双方が領有権の主張をしないことで合意された。

 この方針が狂い出したのは野田政権下であった。当時,尖閣諸島周辺に中国船が頻繁に訪れるようになっていた。(しかしこれは,中国政府が公式に認めている船ではない点に注意されたい。)そこで動いたのが当時の東京都知事石原慎太郎だった。現在の維新の源流でもある彼は,言わずもがな極右の人である。石原氏は東京都で尖閣諸島を買うと言い出したのだ。

 その発言に慌てた野田氏は,都が外交に介入し外交秩序が乱れることを懸念し,国で尖閣諸島を買うと言い出した。これでは中国が怒る。戦争責任の問題が再燃しかねない。日本の外交にとっては切迫した状況になったのである。

 その後,安倍政権に交代し問題は悪化の一途をたどる。安倍氏もまた極右であることは言を俟たない。安倍氏の下,外務省は尖閣諸島を日本固有の領土であることを主張する動画を作り,教科書には日本固有の領土であると明記した。中国からは非難の声が出たがもっともなことである。

 安倍氏が国益を守っていると評する声もあるようだが,否,国益を損ねる恐れの方が大きい。経済的にも中国は目覚しい発展を遂げており,日本の技術力との対等な協力関係を築けば力強いパートナーとなりうることは明白だ。アメリカの影響でそれが困難であるのは事実だが。

 しかし,中国に対する強硬な姿勢は,明らかに道義に悖る。戦争責任のいわば未解決状態は,日本にとっては大きなディスアドバンテージだが,それをアドバンテージに変えてこそ外交である。外交手腕とはそのように発揮されるべきものであって,溝を深めるものではないはずだ。

 されに付け加えて,中国に嫌悪感を抱く方にお付き合いいただきたい。

 そもそも,東アジアでは,清の時代に至るまで国境というものは存在しなかった。中国の世界観は,中華思想とも呼ばれるが,中国皇帝を中心にして中国,周辺国,そしてその先とランクが下がっては行くものの延々中国が中心であり,属国の主権は皇帝が持つと考えられてきた。その思想は冊封体制というところに見て取れる。

 中国に初めて国境が引かれたのは1689年のネルチンスク条約である。当時は,講和会議の結果であって国境という観念でそれを扱ってはいなかった。しかし時代が進み,アヘン戦争・アロー戦争の頃になると体制は大きく変わる。

 絶頂期の康熙・雍正・乾隆のころは世界屈指の強国であり,ヨーロッパからも憧憬の眼差しを受けていたが,この時の清朝は絶頂期を過ぎ,王朝としては老齢期に入っていた。イギリス,フランスはそこに付け入る隙を見出し,中国を骨の髄まで貪った。

 (清)は,日本以上に利用され,搾取された。国境などという概念がないにも関わらず武力により強引に国境を定められ,一部は植民地化されていった。それを定める条約という文化も,本来東アジアにはなかったというのに。

 国が荒廃していく中,収拾がつかぬまま,気づけば中国は劣等国に成り下がっていた。唐,元,清の時代には世界に誇る超大国であったのに。なにも意思表示をする機会がないまま今の国境が定められている。理不尽ではないか。これが中国の思うところであろう。

 戦争というものは金のために行われるものでしかない。民主主義だとか自由主義などというのは後付けでしかない。日中戦争は事実として日本が加害者である。しかし,日本という国も資源に乏しい国であり,国家を守るために満州に活路を見出さざるを得なかった。第一次大戦の戦後復興の世界的動きからは,アメリカがいかに日本を窮乏させようと企んでいたかがわかる。アメリカは太平洋覇権を握るために日本を苦しめた。その圧力が日中戦争へと発展し,その反動が太平洋戦争に及ぶ。日本もまた,列強の圧力のもとに舵取りを行わなければならない被害国であったのだ。

 少しは見方も変わっただろうか。アジア諸国はアジアで築かれた独自の文化を否定された現在を歩んでいる。アジアとしての個性と欧米の覇権の軋轢に悩まされているのだ。中国を悪い国と決めつけるのではなく,なぜそのような行動をするのかと探ると,憐憫の余地も見出せはしないだろうか。中国の置かれる苦しい立場は,東アジアの隣国で同じような苦しさを味わってきた日本なら理解できるはずだ。お互いの歩み寄りから華ある外交を築いていきたいものだ。

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オーサー

荻原重信

荻原重信

宮城県出身。
THE-MEDIA.jpの設立以来、政治コラムニストとして寄稿を続ける。
最近ツイッターを始めた。
趣味は剣道。好きな食べ物はササニシキ。

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