世界の歴史から紐解く「ネット選挙」の行方

東京都知事選は7月5日。二ヶ月もないところまで近付いている。

小池氏のコロナ対応の評価,対立候補の資質などが投票先の決定要素になるだろうか。

 コロナの混乱に対する安倍政権の対応には厳しい目が向けられた。中には,自民党の得票率は有権者全体の33パーセントにとどまり,国民の信任は得られていないと主張する人もいる。投票率が上がれば結果は変わっていたかもしれないと言う声もある。では,投票率を上げるためにもネット選挙を導入すべきか検討しよう。

 時代は17世紀に遡る。当時,世界のヘゲモニー(覇権)を握っていたのはオランダであった。北海貿易で造船業を中心に工業国となり,アジアにも進出して香辛料貿易を盛んに行なった。時代は下り,18世紀,今度はヘゲモニーがイギリスに移った。きっかけは香辛料需要の低下と綿製品の需要の上昇である。オランダとの香辛料貿易競争に敗れたイギリスは止むを得ずインドに交易拠点を保っていたが,これがイギリス繁栄の鍵となったのである。

 そして20世紀に入り,重工業主力の時代となるとドイツとアメリカが勢力を伸ばした。軽工業に重心を置いていたイギリスは重工業への移行がうまくいかず衰退していく。二つの大戦を経て,ヘゲモニーを握ったのはアメリカだった。

 現在,21世紀においてアメリカの力は確実に衰退している。もはやアメリカは世界の警察ではない。大統領が国連に対する不満を吐露し,ヨーロッパに対する主導権を堅持できる状態にないことにも明らかだろう。それでは,次のヘゲモニーを握る国家はどこなのか。それが問題になる。

 しかし,次にヘゲモニーを握る国家は生まれないのではないかとも考えられる。工業化を目指し,貿易を発展させ国を成長させるには「国民国家」という幻想が必要である。同胞として国民が団結しなければならない。各々イギリス人,アメリカ人であるとの自覚を持っていた。しかし,イギリスにしても,アメリカにしても,元来イギリス人,アメリカ人という民族はない。そして今,自分のアイデンティティをイギリス人であること,アメリカ人であること,そして日本人であることに求める人は少なくなっている。ネット世界の普及であったり,グローバル化など,国境という概念もなくなってきている。「国民国家」の幻想は崩れているのだ。選挙の投票率の低下もそのような流れを反映したものなのかもしれない。

 そうだとすれば,投票率をあげればいいという話ではなくなる。投票率の低下は,歴史の流れの中で自然に形成された主権者意識の低下の反映であり,ネット選挙を実施して投票率が上がったとしても,政治に対する関心の低い人の安易な票が増えるだけだ。無責任な票のかさ増しでは,為政者としての資質がない人を余計に当選させる恐れが高まるだけである。投票率の上昇のみを政治の健全化の指標とするのは大きな誤りであり,ネット選挙に期待できる役割は極めて小さいものであるというべきだろう。

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荻原重信

宮城県出身。
政治コラムニストとしてTHEMEDIAに寄稿。
最近ツイッターを始めた。
趣味は剣道。好きな食べ物はササニシキ。